不安な夜~第二話~







 告白なんて、怖くてできない。

 敦賀さんと会えた日は、会えた嬉しさではなく、寂しさでイッパイになってしまう。




 敦賀さんへの想いが抑えきれなくなってしまって、プライベートで敦賀さんと会う事を避けていた頃に、敦賀さんからラブミー部へ依頼が入って、お食事を作りに行った。
 自分の想いを隠す事に頭がいっぱいで、敦賀さんのお話など聞いていなかった。
 敦賀さんのお宅にお邪魔するといつも送って下さると仰るけど、車の中で二人だけの時間を過ごすのも、怖かった。
 だから、新しい携帯電話の番号もメルアドも、敦賀さんには知らせていない。
 だって、新しくなった事を知らせたら、新しくしなければならなくなった理由も伝えないわけにはいかないもの。
 敦賀さんってどういうわけか、私の前だと好き嫌いを隠さないから。
 ショータローに携帯電話壊されたなんて知られたら………。
 あいつと接触した事知られるのは、怖い。
 前に強引に車に同乗させられた時、敦賀さんは話も聞いてくれないで、責める事すらなくて、無視、された。
 あんな事、もう二度と嫌だ。
 だから、私は、敦賀さんに話し掛けられても気が付かないくらいに緊張し過ぎていた。
 敦賀さんと二人きりの空間にいる事に耐えられなくて、お疲れの敦賀さんのお手を煩わせるのも嫌で、タクシーを呼んで辞去してしまった。
 私は自分の気持ちを抑える事に精一杯だったから気が付かなかったの。
 その時の敦賀さんの表情にも、私の失礼な態度に怒っていらしたわけじゃなくて、困惑していらしたのだって事にも。
 そして、私が敦賀さんのお返事も聞かずにマンションを飛び出して、元の携帯電話が繋がらなくなっていたから、敦賀さんが思いも掛けない事態に陥っているなんて、それこそ思いもしなかったのよ。


 遭えても遭えなくても淋しい敦賀さんとのプライベートの機会は、私がタクシーで帰宅した日から暫くの間なかった。
 芸能界一良い男の敦賀さんと、新人の域を出たばかりの私ではお仕事が重なる機会などそうある筈もなく、局で擦れ違う事すらない日々が続いていた。
 そんな時、いきなり舞い込んだのがドラマのヒロイン役。
 勿論、私などに最初からヒロイン役が来る筈もなく、相手役に見惚れて演技の出来ない新人女優に切れた監督が、売出し中の新人を首にしたらしいと聞いた。その相手役に見惚れて演技を忘れるなどと言う失態を演じる心配のない女優として、私に白羽の矢が立ったのだと、社長から聞かされた。
 相手役は敦賀さん。
 渋る私の本心を承知している社長は断る事を承知してくれなくて、さっさと椹さんにスケジュール調整をするように命じてしまった。

「社長さん……」
「逃げていては何も解決しないぞ」

 厳しいけど優しい目で私を見据えて告げられる言葉には逆らえなくて、納得するしかなかった。
 渡された脚本では、私の演じる女子高生は、担任の先生に恋していながらも自分の夢を真っ直ぐに追い掛けている女の子。獣医になりたい彼女に、医師になる為に医大へ進学する事を強要する親は、獣医大学へ進学するなら費用は出さないという。アルバイト禁止の高校の規則を破り、大学進学の資金を稼ぐ為に夜のバイトを始めた彼女は担任に発見される。口止め料にキスを要求してくる担任を名乗る男はまるで昼間の先生とは大違い。夜の彼は、昼間の品行方正のストレスから生み出された第2の人格。性格は違っても同じ人間で、彼女を好きだと宣言する。
 敦賀さんの役が二重人格の担任で、彼に翻弄される女子高生が、私が頂いてしまったヒロイン役。
 さらっと流し読みしただけだけど、このヒロイン、恋する男性に迫られまくる役よね。
 敦賀さんに迫られまくるなんて、普通なら失神ものだわ。
 新人女優さんが演技できずに首になるのも仕方がないかも……。
『蓮は相手に本気で惚れさせるから』
 以前社さんから聞いた。
 あの時は、敦賀さんに恋をする事が怖くて仕方なかったから、相手役だけはしたくないと思ってた。
 今は、恋してしまっているから、これ以上好きになるのが怖いと思う。
 でも、今更断れないし、やる以上は敦賀さんに恥ずかしくない演技をしたい。
 覚悟を決めてスタジオ入りしたのは翌日の事。
 でも、私の覚悟なんて本当に足りなかったと思い知らされる事になったのだけど。



 
 
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